これから手術を受けられる皆さまの中には、麻酔について不安をお持ちの方も多いと思います。
「手術中に心臓が止まったりしないだろうか。」
「麻酔で眠っていてもちゃんと息ができるだろうか。」
「麻酔が切れて傷が痛くなったりしないだろうか。」
「急に出血しても助けてくれるだろうか。」
実はこれらのことを手術中たえず監視し、さまざまな工夫をしながら手術が安全に行えるよう努めている人がいます。それがわれわれ麻酔科医です。麻酔科医は手術中の麻酔管理のみならず手術前後の患者さんの全身状態を良好に維持するために細心の注意を払います。
手術中の麻酔管理は大きく次の3つの柱から成り立っています。
また、麻酔科医は手術室の外でも活躍しています。後ほどお話ししますペインクリニック、救急・集中治療も麻酔科医の大きな役割です。
当院には現在、日本麻酔科学会認定の麻酔科専門医を含む4名の麻酔科常勤医がおります。手術による痛みと侵襲のストレスから患者さんを守り、安全で快適に手術を受けて頂けるよう、日々努力しております。
麻酔方法には大きく分けて全身麻酔と局所麻酔があります。
これらは手術方法や患者さんの全身状態に応じて単独で行うときと両者を併用するときがあります。詳しくは手術前の麻酔科術前診察でご説明いたします。
当院で行われている年間およそ3,400例の手術のうち、小さな手術などを除くおよそ1,800例の手術の麻酔が麻酔科医の管理によって行われています。全身麻酔はおよそ1,300例、脊髄くも膜下麻酔(脊椎麻酔)はおよそ500例行われています。
小児(16歳未満)では小さなけがの手術を除いて、通常、全身麻酔を行います。見慣れない手術室での不安が大きく、また成人に比べ循環・呼吸において好ましくない反射の症状が起きやすいため、眠っている状態の全身麻酔の方が安全だからです。
手術を申し込まれたら、手術前の検査(血液検査・胸部X線・心電図・呼吸機能検査など)を受け、麻酔科医による術前診察を受けて頂きます。当院では、緊急手術の場合を除き、この麻酔科術前診察は麻酔科外来で行っております。こちらで麻酔について詳しいご説明をいたします。またその際に今までかかった病気や飲んでいる薬やアレルギーなどについておたずねします。必要に応じて検査の追加や他科への受診をお願いする場合がありますのでご了承下さい。
たばこを吸っている方は手術の後に咳や痰が多くなります。そのため肺炎を起こしやすくなり、傷の痛みも強くなります。また、手術の傷の治りも遅れがちです。手術が決まったらすぐに禁煙をしてください。
安全な麻酔のために大切ですので必ず守るようにしてください。
当院のように日本麻酔科学会認定の麻酔科専門医が勤務する病院では、手術中に起きた偶発症による死亡率は1万例に対して6.78例で、そのうち麻酔が原因で死亡する率は0.1例、つまり10万例に1例の割合であることがわかっています(日本麻酔科学会調査)。
麻酔という医療行為には危険が伴いますが、その発生率はきわめて低く、麻酔は安全性の高い医療行為の1つであるといえます。しかし100%安全な麻酔は存在しません。われわれ麻酔科医は常に100%安全な麻酔を目指し、日々研鑽し、努力しております。
痛みをとるための知識と技術を利用して、痛みを主な症状とする病気を治療するのがペインクリニックです。当院の麻酔科外来では火・木曜日の午前にペインクリニックを行い、年間約700回の、さまざまな痛みの治療を行っています。
ペインクリニックは主に次のような症状が適応となります。
くび・肩の痛み
上肢(うで)の痛み
腰痛
下肢(もも・ふくらはぎ)の痛み
帯状疱疹後神経痛
顔面の痛み
がん性疼痛など
主な治療法としては、神経のそばに局所麻酔薬を注射する神経ブロック、電気鍼療法、薬物療法のほか、低出力レーザー照射も行っています。痛みでお悩みの方はお気軽にご相談ください。
なお、透視装置を用いた神経ブロックや、難易度の高い神経ブロックは当院では実施していませんので、他院を紹介します。
最初にお話ししましたように、麻酔科医は循環管理と呼吸管理の専門家でもあります。この知識と技術を利用して、集中治療室(ICU)では重症患者さんの循環・呼吸管理を行っています。また心肺蘇生をはじめとする救急医療においても麻酔科は重要な役割を担っています。