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ドクターインタビュー

懸樋 英一 / 総合診療科・診療部部長

「やりたいこと」から「求められること」へ
地域のオールラウンダーとして社会に貢献する

超高齢社会を迎える中、多くの高齢者は複数の疾病を罹患していることから、これまでのように臓器別に専門分化した医療のみの対応では地域医療の維持が難しい状況に直面しています。総合診療科は、複合的に病気を抱える患者さんに対応するだけでなく、心理社会的な課題も含め包括的に取り組む診療科です。鳥取市立病院は2010年から総合診療科を設置し、「治す医療」と「支える医療・介護」を実践してきました。へき地勤務の経験から、「総合診療」への必要性を感じ、同院の総合診療科の立ち上げに携わった懸樋英一医師に、地域医療の課題と総合診療に懸ける思いを聞きました。

へき地での経験から総合診療を継続

―医師を志したきっかけを教えてください。

幼少期の頃からスポーツが好きでよくケガをしていたことから、いつしか自分は整形外科医になって、人の役に立つ仕事をして社会に貢献したいと考えるようになりました。自治医大を選んだのは、地域医療や自治体のあり方に興味を持ったのと、学費面で親に負担をかけたくないという思いからです。自治医大には卒業後9年間、僻地の病院や診療所で勤務する義務年限があり「総合医として働いてください」というミッションがあります。僻地での医療活動を通して、地域住民に対する医療のニーズ多様であることを肌で感じました。それと共に、「家庭医療」や「プライマリ・ケア」という領域に興味と必要性を感じるようになりました(家庭医療≒プライマリ・ケア≒総合診療)。義務年限修了後は、多くの医師は臓器別の診療科に進むのですが、自分は「総合医として働いてください」を継続することにしました。

―その当時、どんな患者さんが多かったのでしょうか。

へき地の病院・診療所では高齢の患者さんが多く、複数の病気を持っています。例えば、狭心症(循環器内科)、気管支喘息(呼吸器内科)、変形性膝関節症(整形外科)、総胆管結石術後(消化器内科)、骨髄異形成症候群(血液内科)、膀胱癌術後(泌尿器科)など、複数の診療科に受診している高齢男性をまとめて担当したこともありました。認知症の妻と2人暮らしのため、市内まで通えなくなったためでした。たくさん病気を抱えて、どのように関わればいいのか戸惑いましたが、ある日の訪問診療の帰りに立ち寄った山村開発センターでその方の盆栽が展示されているのを発見しました。その後、外来で話を伺うと趣味で取り組んでおられることを知りました。病気だけを診るのではなく、生活にも目を向ける重要性を感じた事例でした。

診療所においては乳幼児の予防接種から100歳の方の診療まで、幅広い年代の方を診療しました。午前中に保育園児を診察した後、90歳の患者さんの訪問診療に行き、同じ日の夜には別の在宅の方の看取りをしたりと、人の「生老病死」を日々経験していました。

―へき地医療の経験が総合診療医への道に導いたのですか。

そうですね。そういった環境に身を置くうちに、病気を治療するだけの横断的な医療よりも、患者さんの人生を時間軸の中で支えていく医療のあり方に関心が高まっていきました。臓器別の専門医ではなく、広い視野で人を診る医師の方が、地域社会や地域の人に必要とされるのではないかという考えに少しずつシフトしていったのです。ただ当時はまだ現在の「総合診療」のような医療文化は確立されておらず、臓器別診療科に進むのが当たり前とされていた時代であり、義務年限が終わる最後の年は非常に悩みました。

私の地元が鳥取市で親の介護もあるため、義務年限が終わったら鳥取市に戻りたいと考えていました。必要に迫られて義務年限の間に消化器内視鏡の専門医資格を取得しましたが、当時の鳥取市には消化器内視鏡医はたくさんいましたが、総合診療をしようという医師は存在していませんでした。そんな中、当院の院長が総合診療科の立ち上げに意欲を示していることを知りました。この地域で「総合診療」の位置づけを確立し、総合診療医の役割を明確にしていくことが求められているのではないかと思いました。「自分がやりたいこと」と「社会から求められること」を天秤にかけ、「社会貢献」への強い思いから、義務年限明けも総合診療医として継続していくことに決めました。


アカデミックな視点で地域医療に取り組む

―臨床の仕事をしながら大学院に進学されていますね。

地域医療を学ぶのであれば、単に「地域の優しいお医者さん」として患者さんを診るだけではなく、研究者として学問的な視点で取り組むことで医療の質が高まると先輩からアドバイスを受けました。当時、総合診療の臨床は雰囲気や感覚で取り組んでいると思われることが多く、データをとって地域や病院の中で起こっているあらゆる事象を数字に置き換えて分析し言語化して判断することが必要ではないかと漠然と思っていました。自治医科大学の社会人大学院では、実験室を使用しない社会学系の疫学研究の指導を遠隔で受けられましたので、全国のコホート研究に関わらせてもらいました。大学院を4年間で修了し、現在、地域の総合診療を担う上で、疫学・公衆衛生学的な視野の重要性を日々感じています。それに気付けたことは大きな財産です。

―現在はどのような患者さんが多く受診されますか。

当院は総合病院なので15歳までは小児科が担当します。総合診療科で担当する患者さんは高齢者が多く、入院患者さんの平均年齢は85歳で、肺炎が最も多いですね。今話題になっている誤嚥性肺炎の頻度が特に高いです。受診のきっかけとしては発熱、倦怠感、食欲不振と言った非特異的な症状であり,原因不明の発熱でどの診療科にかかっていいかわからない方の初期対応を行います。不安や心配といった診断がつかない患者さんも多く,丁寧に診察し「問題ないですよ」とお伝えすると安心して帰られます。高齢になると、一つの臓器では説明できない複合的な病態や加齢に伴う機能低下で体調を悪くすることがあります。そういう患者さんは従来の臓器別専門科だけでは対応しきれません。総合診療医は一つ一つの臓器別専門性に関しては弱いかもしれませんが、ゲートキーパーとしてトータルに診ることで他の医師や医療スタッフの負担を減らし、総体的に医療の質を上げる役割を担えるよう頑張りたいと思います。


多職種とのチーム連携が醍醐味

―多職種との連携が重要ですね。

「肺炎」と聞くと肺の病気と思われがちですが、「誤嚥性肺炎」は飲み込む嚥下機能の低下が原因です。医師が抗菌薬を処方するだけでなく、チームで再発予防のための取り組みを行っています。歯科医や歯科口腔に携わるスタッフと連携しながら診療を行います。例えば、口腔内のケアは歯科衛生士に、飲み込む力を評価するために言語聴覚士に協力を依頼します。高齢の方で寝たきりに近い状態になってくると体が硬直して食べづらくなりますので、食事を食べる時の姿勢も理学療法士や作業療法士との協働作業になります。栄養価の高い食材を安全に食べるためには栄養士、食事をサポートする看護師、退院後、在宅か施設かを相談するメディカルソーシャルワーカーとの協働となります。院内だけでもこれだけ多くのスタッフの協力が必要なのです。

また、退院に向けてカンファレンスを行うときは在宅療養に関わってくれるケアマネージャーや訪問看護や訪問リハビリ、在宅でベッドや機材をリースしてくれる業者の方、幅広い分野の関係者に医学的な観点を説明します。現実的にどのような生活を送ったらいいか話し合いをする時には医師だけでなく様々な職種の方に協力を求めます。チームが一体となって取り組む患者さんへのサポートは総合診療科の醍醐味でもあります。

―総合診療医としてどんな時にやりがいを感じますか。

医療には「臨床」「研究」「教育」の三つが主なフィールドがありますが、「臨床」であれば、先ほど申し上げたような複雑な背景を持つ高齢の患者さんをチームで支えて自宅に戻すことができた時は大きな喜びですし、外来で診断が難しい患者さんの診断がついて、速やかに治療に結びつけることができた時にも達成感が得られます。

直近の「研究」では、高齢者のデータを集めて「バイタルサインだけでも肺炎の予後を予測ができるか」というテーマで調査しました。高齢の対象者のサンプルを集めてみたら価値のあるデータが出たので論文にして投稿しました。一般的に高齢者を対象にした医療研究はあまり注目されないのですが、アクセプトされた時はやっててきて本当によかったと思う瞬間でした。

「教育」という点では鳥取大学医学部の地域医療学講座が中心となり,鳥取県内の医療機関でグループを組んで総合診療医の育成プログラムを作っています。この度、指導に関わった専攻医が総合診療専門医試験を受験して合格しました。若い先生方の育成に携わった立場で成果を上げられたというのは自分事のように嬉しかったですね。


心理社会的な課題を抱えている人にも寄り添う

―地域医療が抱えている課題はどんなことでしょうか。

高齢の患者さんには臓器別に分けることができない複合的な病気だけでなく、心理社会的な問題を抱えている方も大勢いらっしゃいます。独居の人、生活基盤が整ってない人、家があるようでない人、生活保護の人、アルコール依存の人、そういう方々は今の臓器別に細分化された医療の現場では対応が難しいと感じています。病気だけの視点で健康を考えるのではなく、心理社会的な課題も含めて全身をトータルで診ることができる、総合診療のマインドのある医師が地域医療に加わることで、住民が安心して健康的に過ごせる社会に近づけるのではないかと思います。

鳥取県は人口10万人に対する医師数が全国的には多いと言われていますが、そのほとんどが西部地区に偏っていて、東部地区は医師が高齢化し減少しています。自分のやりたいことをするだけではなく、地域の住民の方が少しでも困らないように役割を担ってくれる医師がもっと増えたらいいと思っています。多くの医療者の理解が得られるように、現在力を入れている診療や地域との取り組みを今後も継続させていきたいです。

まずは同院の総合診療科の多職種チームの取り組みにより、地域の患者さんたちが恩恵を受けているということを1人でも多くの人に知ってもらうことです。そして私たち自身もプロフェッショナルとして、その役割を自覚し、たとえ困難に直面しても一緒に乗り越えていけるような高い意識を持つことが求められます。若い世代がここでの医療活動に価値を見出し、誇りを持って働ける環境を作っていくことが自分の使命だと感じています。

―患者さんに向けてのメッセージをお願いします。

健康寿命を伸ばすためには自分の健康は自分で守ることが重要です。最近、「孤独」とか「孤立」といったキーワードを目にする機会が増えてきました。健康に最も影響しているのはお酒やタバコも重要ですが、「健康の社会的決定要因」と言われる社会や地域とのつながりだということが最近の研究でわかってきました。人との繋がりを大切にすることは長い目で見ると健康長寿に繋がります。 

ゲートキーパーといえども診断できない難しい病気もたくさんありますし、大学病院など高次医療機関に紹介しないといけないような事例もあります。診断がつかない病気の中には心の問題や家庭内の揉め事、大切な家族を亡くしたという人もいました。気持ちが落ち込んだことで体調不良になる方も結構いらっしゃいます。そういう方々に対しては傾聴的なスタンスで対応しています。医学知識だけでは解決できない、社会が求める、そして人に寄り添う医療をチームで実践していますので、気軽にご相談ください。


懸樋 英一 かけひ えいいち
 / 総合診療科・診療部部長

鳥取市出身。幼少期よりスポーツに親しみ、趣味はジョギング。都合が合えば大会参加もしている。最近、漫画と韓国映画にハマっている(韓国映画は、アマゾンプライムからオススメされるままに見ている)。

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